弄られてこそ華

「プロデューサー、何で、私、こんな衣装でまた歌わされるんでしょうか?」
ん?その衣装は嫌か?
「嫌と言うよりも、プロデューサーが何を考えているのか、全く判りません」
…千早、ソレがお前の良い所であり、悪い所だ。
「えっ、どういう意味ですか?」
千早は、形にばかり拘り過ぎてる。自分は最高の歌手を目指すんだ…って
「ソレは私の目標ですから…でも、何故ですか?」
それじゃ、最高の歌手って何だ?
「それは、聞き手の皆さんが心揺さぶるように、歌を上手く歌い…」
でも、"心揺さぶる"って、どうやってだい。人間の心理学とかを応用して
機械的に音声を合成した歌でも、それは可能になれば、どんな才能をもっても
機械には負けてしまうよな。人間ってのは常に完璧ではないのだからさ。
「それはそうですが…」
でも、人は"人"としての存在もあるよな。歌手としての千早もそうだ。
馬鹿な格好で歌わされている千早もそうだ。
どんなに技術的に発展させても、人が歌う歌は機械的には歌わせられない。
何故だか判るか。
そこに"人"がいるからだよ。例えば、そこに千早がいるように。
その千早はメカじゃない。人として、人の集団の中で、人の社会の中で、
生きている中で、自分の存在をおいて、歌う訳だろう。
「それです…ね。それはそうですが、この衣装は…」
だからだよ。いつも頂点を目指してばかりでいる、存在でなく、やはりバタ臭い
人間らしさを見せてこそ、人間らしいと思わないか。
"真面目過ぎるが故に、こういう風に弄られていしまう"ってな
「…なるほど、人としての存在…私からの視点だけでなく、歌を聴いていただく
人からの視点での私の存在…プロデューサー、私、視野が狭くなってしまってる
私の心情を察して、わざとやったんですね…ありうがとうございます…
私にそういう至らない点があるなら、もっとご指導お願いします。」
わかってくれりゃ良いさ…俺には俺のやり方で、千早の才能を伸ばしたいのさ。


「って、相変わらず、口先だけは上手いのよね…あの人は…まぁ、あの口車に
乗せる才能は、私も勉強すべきよね…」


ん?律子、なんか言ったか?