「6月22日 11:55pm」

首都高を飛ばして運転している私に、律子が問いかけた。
「プロデューサー、明日の予定は?」
後部座席の真ん中に律子は座って、ノートパソコンでごそごそとブログを
更新してる。
「明日の予定は、スケジュールどうり、仕事はオフ。朝から放課後まで
みっちりと高校で勉強して来い。久々だろう、遅刻も早退もなく学校で
時間過ごせるのはさ。」
そう、律子はアイドルとして、順調に活動しているけど、まだ高校生。
「学校に出席日数と単位の確認をしておいてくれよ。ちゃんと3年で
卒業したいだろう。それにあわせてスケジュールも入れるから。」
「プロデューサー、気を使ってくれているんですか?大丈夫ですよ。
私、アイドルとしてデビューする事になって、留年とかも覚悟の上で
活動する事決めたんですから。」
バックミラー越しに見る律子は、けろっとした顔でそう応えた。
「それに、放課後の学校帰りに、事務所の事務アルバイトとして働いて
いただけの、元々ちゃんと通ってたんで、出席日数とかは大丈夫ですよ。」
「それならいいんだけどな。でも、生活変わっただろう。そういう所も
気をつけてやらないとさ。」
「そういうプロデューサーの気配りは嬉しいわね。だから、思い切って
仕事やらせてもらってますよ、私。」
笑顔と一緒にぎゅっと手を握る律子のしぐさがバックミラー越しに
映し出された。


車は事務所に付いた。こんな時間でも小鳥さんが一人、事務所で
留守番をしながら、ネットの掲示板をみていた。
「あら、律子さん、プロデューサーさん、おつかれさまです。」
「小鳥さん、今度の簿記試験のヤマを張りたいんで、ちょっと教えて
もらえますか?」
「あら、律子さん。簿記試験って、1級目指すの?」
「って、事は既に律子は2級持ってるのか?」
「ええ、そうよ。私の夢を叶える為にも、簿記とかも大事な事だもの。
その辺の知識を実践で鍛えている小鳥さんから教わるのが一番かなって」
「簿記一級ともなると、大変ですよ。私が教えられる事があるなら。」
「それじゃ、財務諸表規則とかについてなんですけど…」
「それはね…」
私は簿記なんて考えた事なかったので、頭が痛くなるように感じる単語が
二人の会話からぽんぽん出てくる。
ふと、机の上に目線を移すと、プレゼントの山が…
そう、ちょうど今、日付変わって今日23日は律子の誕生日だ。
「人気アイドルともなれば、誕生日のプレゼントもすごいな。
誕生日おめでとう、律子」
「え゛っ、あら、日付変わったわね。誕生日おめでとう、律子さん」
「あ、ありがとう。皆覚えてくれてたんですか?」
「担当しているアイドルだしな。」
「私は、事務所の皆のも覚えているわよ。」
「ちょっと恥ずかしいですね、不意にそんなこと言われると」
「ファンの皆もこんなに祝ってくれてるしな」
「前日届いただけでもこんなにあるんですもの。当日分はもっと多いかも
しれませんよ」
「じゃ、プロデューサー。今届いてる分をプロデューサーの車で積んで
家まで送ってくださいね。当日分もお願いしますよ。」
「ま、それだけプロデュースが順調な証拠だしな。判ったよ。家まで
送るついでに運んでやるよ。荷物運びも兼ねて、あの車選んだんだし」
「見た目古い感じなのに、首都高では結構早いし、座り心地とかいいし、
高級そうな雰囲気なのに、マニュアルミッションなんてのもなんか
珍しいですよね。」
「そんなに乗り心地がいいと、律子さんがいうのなら、私も一緒に家まで
送ってもらおうかな。」
「じゃ、小鳥さんは車の中で簿記試験の講習お願いしますよ。」
「はいはい、抜け目ないですね、律子さんは。その代わり、今度の試験で
一発で合格してくださいね」
「ううっ、ヤブヘビつついたかしら…」
ばつの悪そうな律子の表情を見て噴出しそうになったが、それを見て
こっちを睨み付けそうな律子の視線から逃げ出す為に、私はファンからの
プレゼントを両手に抱えた。
「じゃ、車にプレゼント積んでおくから、その間にも講義受けておきな」
私は両手にプレゼントを抱えて駐車場に向かった。


「で、相変わらず、律子さんの気持ちに対して鈍いの?」
「えっ、小鳥さん、何を突然っ」
「プロデューサーさん、細かいところまで目が届くけど、こういうのは
なかなか鈍いようですよね。ふふふ」
「う゛っ」
小鳥さんって、油断できない人だなと律子は感じつつも、反撃と
ばかりに、その隙を突付く。
「プロデューサーも、小鳥さんがいつもこんなに想ってるのに、それに
気が付かないんだし…」(にやっ)
「あわわわ…り、律子さん、大人をからかわないのっ」


「おーい、プレゼント積んだから、送るぞー」